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醫市報(いしほう) Medicalcity Report
栄養夜話 第4話
モツ鍋の季節です。鍋いっぱいに盛り上がったニラと、底に沈んだモツをほおばる場面を想像しながら、今回は腸の話。
腸は十二指腸にはじまって、空腸、回腸、結腸、そして直腸からなりたっています。前3者は小腸、後2者は大腸に区分されます。同じ腸でも小腸と大腸ではずいぶん違いがあります。
小腸は口から取り込んだ 食物を消化して栄養素に分解した後に吸収する場所ですから、栄養素を肝臓に送り出すために血管の分布が密になっています。それに対して大腸は水分の吸収が主な働きですから血管の分布が少ないのが特徴です。この血管分布の違いにはもうひとつの重要な理由があります。
人間の体を作っている細胞のほとんどがブドウ糖をエネルギー源としていることはご存知ですね。細胞分裂(いいかえると、新しい細胞が作り出されるということですね)が盛んな細胞ではブドウ糖の消費も激しいですから、血管を介してブドウ糖をどんどん供給する必要があります。
腸粘膜の細胞は、体の中でも細胞分裂が盛んな場所ですから、あたらしい細胞を作り出すための栄養素が大量に必要です。小腸の場合は、ブドウ糖の他に、グルタミンというアミノ酸やケトン体(すでにお話ししましたよね)が栄養素となります。これらはすべて、血液に溶け込んで小腸に運ばれます。小腸の血管が豊富な理由のもうひとつがこれです。
大腸の場合は、実は事情が大きく異なります。大腸粘膜の細胞も小腸粘膜と同じように盛んに分裂しています。(ちなみに、古くなった粘膜細胞は粘膜から脱落して腸内細菌のえさになります)。ところが、消費される栄養素が小腸と大腸とでは全然ちがうのです。
大腸粘膜はブドウ糖ではなく、酪酸や酢酸、あるいはプロピオン酸を栄養源にしています。以前にお話したように、これらの酸は食物線維を原料にして腸内細菌が作り出したものです。すなわち大腸の中の便のなかに存在しますから(血管を介するこ となく)直接大腸の粘膜から吸収することができます。大腸の血管密度が低い理由がここにあるわけです。
小中学校の教科書を見ると、大腸は栄養素を吸収することはなく、もっぱら水分を吸収する場所だと書いてあります。医学部の教科書も同じです。けれども、大腸も小腸と同じように栄養素を盛んに吸収していることが分かっていただけましたよね?大腸は、吸収した酪酸などの栄養素を、まず自分のために利用して、残りを肝臓の栄養素として送り出しています。大腸は、肝臓の小作人みたいなところがあるのです。心臓や脳から見ると、自分たちにはまったく協力しないイマイマしい奴と移るのではないでしょうか。
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