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醫市報(いしほう) Medicalcity Report
栄養夜話 第2話
ウサギを飼ったことがあります。庭に放つと雑草を一生懸命食べてくれますから、雑草を抜く手間が省けるなあと思ってました。僕の先輩で、このアイデアを本格的に実行した人がいました。底のない網かごに閉じ込めたウサギを雑草が目立つ場所に放置して、一定時間ごとに移動させて省エネ除草に成功したらしいです。
ウサギの主食は草(おもにセルロース)ですが、自分の糞も食べていることにお気付きですか。これを食糞行動、コプロファギーといいます。何のために自分の排泄物を食べるのでしょうか。
ウサギにかぎらず、動物の糞の大部分は腸内細菌です。糞を食べるということは、腸内細菌とともに、細菌が作り出したさまざまの化学物質を食べることに他なりません。ここで化学物質と書きましたけれど、それはどんなものなのでしょうか?
腸内細菌は、ヒトの糞便1g中に数千億も存在しています。ですから、腸の中には目もくらむくらいの細菌がうようよしているわけです。ヒトの体を作っている細胞の数よりも腸内細菌の数の方が多いことがすでに証明されています。われわれは腸内細菌の集団に寄生している生命体に他ならないのです。
腸内細菌は細胞分裂の速度が速いために、多種類の物質を生成します。その中には、体に害を及ぼすもの(発がん性のあるアミン類)も含まれていますが、大部分は動物にとって大事な栄養素になっています。
例えば、腸内細菌は食物線維(繊維ではありません。セルロースなどのことです)を原料にして、いろいろな酢を作り出します。蟻酸、酪酸、酢酸、プロピオン酸などです。食品工学でも微生物をつかって、いろんな発酵食品を作りますがそれと同じです。腸内細菌が作り出したさまざまな酢は、動物の腸や肝臓の大事な栄養素として利用されます。
糞の中には、利用されずに残った栄養素が十分に含まれていますから、これを食べることは体に害があるどころかきわめて有益なことなのです。ウサギの場合は、腸内細菌が作り出したビタミン類も糞からとっていることがわかっています。
ヒトの場合、糞をたべるケースはきわめて稀ですね。僕の同僚にもいないみたいです。ヒトはウサギのように大量の食物線維を食べませんから、腸内細菌が作り出した栄養物をかなり効率的に吸収して利用しているみたいです。そのため、ウサギの糞ほどは栄養価が高くないため食欲?がわかないのでしょうか。
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